
ここでは、ある仮想の美容室を例にしながら、「なぜリピートされないのか」「本来どこから設計すべきだったのか」を整理していきます。
この美容室は、技術力が低いわけでも、接客が悪いわけでもありません。初回来店時の仕上がりも、決して失敗ではない。それでも「悪くはないけど、次はいいかな」で終わってしまう。
この状態を生んでいた原因は、技術ではなく、髪型体験と期待値のズレでした。
仮想美容室の状況
この美容室は、住宅地にある一人オーナーのサロンです。カットの技術は安定しており、リクエストされた髪型はきちんと再現できます。大きな失敗もなく、クレームもありません。
実際、初回来店時のお客さんの反応も悪くありません。
「いい感じですね」
「ありがとうございます」
そう言って帰っていきます。
しかし、二度目の来店がほとんどない。SNSも更新している。ホームページもある。集客はゼロではない。それでも、積み上がっていかない。
この美容室で一番多く起きていたのは、次の状態でした。
悪くはないけど、思っていたほどではなかった。
お客さん側で起きていた違和感
この「思っていたほどではなかった」は、接客態度や店の雰囲気に対する不満ではありません。多くの場合、ズレていたのは 仕上がった髪型体験そのもの でした。
たとえば、
・リクエスト通りにはなっている
・失敗ではない
・でも、驚きや納得感がない
・自分では再現しにくい
お客さんは、提案を期待して来ていました。しかし実際には、要望を丁寧に聞いた結果として「無難な髪型」に落ち着いていた。
スタイリスト側から見れば、間違ったことはしていません。要望に忠実で、リスクも避けている。
ただ、お客さんの期待はそこではなかった。
どこでズレが生まれていたのか
このズレは、来店してから生まれたものではありません。もっと手前、来店前の時点で、すでに始まっていました。
SNSやホームページでは、
・オシャレそう
・センスがありそう
・提案してくれそう
という印象が強く出ていました。
一方で、実際の強みはこうです。
・派手な提案はしない
・要望を丁寧に整理する
・失敗しない着地点をつくる
つまり、「提案型美容室」として期待されて来店したお客さんに、「要望重視・無難設計」の体験を提供してしまっていた。
ここに、期待値ズレが生まれていました。
本来、この美容室が発信すべきだった選ばれる理由
この仮想美容室の本当の価値は、「技術力が高い」ではありません。
本来の選ばれる理由は、
冒険はしないが、要望を丁寧に整理し、失敗しない仕上がりをつくってくれる美容室
という点でした。
この解像度まで言語化されていなかったため、発信、カウンセリング、仕上げのすべてが噛み合わなくなっていました。
① 来店前発信で「期待の型」を決める設計 (集客、ブランディング)
まず必要だったのは、「どんな体験になる美容室なのか」を来店前に正しく伝えることです。
この美容室の場合、やるべき発信は「魅力的に見せる」ことではありません。
・派手なイメチェンはしない
・失敗したくない人向け
・日常で再現しやすい仕上がり重視
こうしたスタンスを、HPやSNSで一貫して伝える必要がありました。
Before/Afterは作り込みすぎない。照明やセットで盛らない。どんな要望で、どこを重視したかを言葉で補足する。
発信の役割は、お客さんを集めることではなく、期待の型を先に決めることです。
② 初回カウンセリングで「完成像の解像度」を合わせる設計 (接客、サービス設計)
次に重要なのが、初回カウンセリングです。
この仮想美容室では、「提案を期待しているか」「要望重視でいいのか」を明確に確認していませんでした。
本来、最初に合わせるべきだったのは、完成像そのものではなく、どこまで提案を求めているか というスタンスです。
・しっかり提案してほしいのか
・イメージを形にしてほしいのか
・失敗したくないのか
ここをすり合わせないまま施術に入ると、仕上がりが合っていても納得感が生まれません。
この美容室の場合、無理に提案する必要はありませんでした。むしろ「今回は安全な着地点にしますが、それで大丈夫ですか」と説明することが重要でした。
③ 再現前提で体験を「日常に接続する」設計 (接客、アフターフォロー)
最後に必要だったのが、仕上がりを日常につなげる設計です。
美容室では良かった。でも家では再現できない。この時点で、評価は一段下がります。
この仮想美容室では、
・どこを守れば再現できるか
・やらない方がいいこと
・日常での扱い方
を、仕上げの段階で十分に伝えていませんでした。
さらに、来店後のLINEやメールでも、再現ポイントの補足はなく、次回予約やキャンペーン案内が中心になっていました。
アフターフォローの役割は、売ることではありません。失敗させないことです。
なぜリピートされなかったのか
この美容室がリピートされなかった理由は、技術不足でも、努力不足でもありません。
期待の型を設計していなかったこと。それだけです。
来店前に期待が上がりすぎ、来店時にすり合わせがなく、来店後に日常へ接続できていなかった。
その結果、
「悪くはないけど、思っていたほどではなかった」
という評価で終わっていました。
まとめ
選ばれ続けるお店は、特別なことをしているわけではありません。
・来店前に期待を上げすぎない
・来店時に期待をズラさない
・来店後に体験を日常につなげる
この順番を崩さずに設計しているだけです。
リピートは、施策で作るものではありません。体験の前提を整えた結果として起きるものです。
この視点を持てるかどうかが、積み上がる店と、止まり続ける店を分けています。
